東京地方裁判所 昭和48年(ワ)3912号 判決 1978年1月25日
原告(反訴被告) 鈴木銀蔵
右訴訟代理人弁護士 岩本寶
被告(反訴原告) 斎藤信男
右被告斎藤信男訴訟引受参加人 有限会社霞ヶ関商事
右代表者代表取締役 宮崎英男
右訴訟代理人弁護士 伊藤銀蔵
同 田代和則
被告 山本定雄
<ほか四名>
右被告五名訴訟代理人弁護士 中村嘉兵衛
右被告五名訴訟復代理人弁護士 内野稠
主文
一 被告(反訴原告)斎藤信男は、原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録記載第二(一)ないし(五)の各建物を収去し、同目録記載第一(一)の土地を明渡し、かつ、昭和四七年五月二五日から右明渡済まで一か月金二万三四九〇円の割合による金員を支払え。
二 被告(反訴原告)斎藤信男は、原告(反訴被告)に対し、金一〇万六〇〇〇円及びこれに対する昭和四七年七月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告(反訴被告)に対し、
1 被告山本定雄は、別紙物件目録記載第二(一)の建物の内西側一戸より、
2 被告伊藤桂三は、同目録記載第二(一)の建物の内東側一戸より、
3 被告根岸哲は、同目録記載第二(四)の建物の内西側一戸より、
4 被告目黒八百四知は、同目録記載第二(四)の建物の内東側一戸より、
5 被告会田米吉は、同目録記載第二(五)の建物の内西北部の一戸より、
それぞれ退去して、その敷地部分を明渡せ。
四 原告(反訴被告)の被告(反訴原告)斎藤信男に対するその余の請求を棄却する。
五 引受参加人は、原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録記載第二(一)ないし(五)の各建物を収去し、同目録記載第一(一)の土地を明渡せ。
六 反訴原告(被告)の請求を棄却する。
七 訴訟費用は、本訴については、原告(反訴被告)と被告(反訴原告)斎藤信男及びその余の被告らとの間においては原告に生じた費用の七分の六は被告(反訴原告)斎藤信男及びその余の被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告(反訴被告)と引受参加人との間においては全部引受参加人の負担とし、反訴については反訴原告(被告)斎藤信男の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告(反訴被告、以下「原告」という。)
(本訴請求)
1 主文第一項、第三項及び第五項と同旨
2 被告(反訴原告)斎藤信男(以下「被告斎藤」という。)は、原告に対し、一四五万〇三四八円及びこれに対する昭和四七年七月一日から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 仮執行宣言
(反訴請求に対する答弁)
1 被告斎藤の請求を棄却する。
2 訴訟費用は被告斎藤の負担とする。
二 被告斎藤
(本訴請求に対する答弁)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(反訴請求)
1 原告と被告斎藤との間で、被告斎藤が別紙物件目録記載第一(一)及び(三)の土地につき借地権を有することを確認する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
三 被告斎藤を除くその余の被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
四 引受参加人
原告の請求を棄却する。
第二当事者の主張
(本訴)
一 請求原因
1 原告は、別紙物件目録記載第一(一)の土地(以下「本件(一)土地」という。)を所有している。
2 林武平は、昭和一一年三月二八日被告斎藤に対し、本件(一)土地を普通建物所有の目的で期限の定めなく賃貸して引渡し、原告は、昭和一三年一二月二六日右林から右土地を買受け、賃貸人の地位を承継した。
3 昭和二五年三月当時の本件(一)土地の約定賃料は一か月四〇〇円であったが、右賃料は次のとおり増額された。
(一) 昭和二五年(四月から一二月まで) 二万五三六八円
(二) 昭和二六、二七年 各年額 三万〇八〇四円
(三) 昭和二八、二九年 〃 三万六二四〇円
(四) 昭和三〇ないし三二年 〃 四万五二四〇円
(五) 昭和三三年ないし三五 〃 五万四三六〇円
(六) 昭和三六ないし三九年 〃 六万三〇四八円
(七) 昭和四〇ないし四四年 〃 七万五五〇〇円
(八) 昭和四五年 年額 一三万五九〇〇円
(九) 昭和四六年 〃 一六万三〇八〇円
(一〇) 昭和四七年(一月から四月まで) 六万三四二〇円
ところで、被告斎藤の住居所は、昭和二五年四月以降不明であったため、原告は自己の過失に基づくことなく同被告に対し、地代家賃統制令に基づく改定地代による増額の意思表示をなしえなかったものであり、かかる場合には、同被告の住所が判明して請求しうる状態になった時に、未払分についても遡及して増額した地代を請求しうる。
4 原告は、昭和四七年五月一五日付内容証明郵便をもって、右郵便到達後一週間以内に昭和二五年四月一日から昭和四七年四月三〇日までの未払賃料合計一四五万〇三四八円を支払うよう催告し、あわせて、右支払がないときは、本件(一)土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、右郵便は翌一六日被告斎藤に到達した。
仮に右郵便による契約解除の効力がないとしても、原告は、本件訴状により、本件(一)土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、右意思表示は昭和四七年七月一日被告斎藤に到達した。
5 被告斎藤は、別紙物件目録記載第二(一)ないし(五)の各建物(以下「本件(一)、(二)、(三)、(四)、(五)建物」という。)を所有して本件(一)土地を占有している。
6 本件(一)土地の昭和四七年五月二五日以降の適正賃料額は、一か月二万三四九〇円である。
7 被告山本定雄は、本件(一)建物の内西側一戸に、
被告伊藤桂三は、本件(一)建物の内東側一戸に、
被告根岸哲は、本件(四)建物の内西側一戸に、
被告目黒八百四知は、本件(四)建物の内東側一戸に、
被告会田米吉は、本件(五)建物の内西北部の一戸に、
それぞれ居住し、右各居住建物敷地部分を占有している。
8 引受参加人は、本件訴訟提起後の昭和四七年六月九日、東京地方裁判所の強制競売における競落により本件(一)ないし(五)建物の所有権を取得し、昭和四八年六月一一日所有権移転登記を了した。
よって、原告は、被告斎藤に対し、本件(一)土地賃貸借契約終了による原状回復義務に基づいて、本件(一)ないし(五)建物の収去及び本件(一)土地の明渡並びに本件(一)土地賃借契約解除後の昭和四七年五月二五日から右明渡済まで一か月二万三四九〇円の割合による適正賃料相当損害金の支払並びに昭和二五年四月一日から昭和四七年四月三〇日までの未払賃料合計一四五万〇三四八円及び各弁済期後である昭和四七年七月一日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を、引受参加人に対し、本件(一)土地所有権に基づき、本件(一)ないし(五)建物収去及び本件(一)土地の明渡を、その余の被告らに対し、本件(一)土地所有権に基づき、前記各建物占有部分からの退去とその敷地部分の引渡をそれぞれ求める。
二 被告ら及び引受参加人の請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の各事実は認める。
2 同3の事実のうち昭和二五年三月当時の約定賃料が一か月四〇〇円であったことは認め、その余の事実は争う。
3 同4前段、5の各事実は認める。
4 同6の事実は否認する。
5 同7の事実は認める。(以上被告ら及び引受参加人)
6 同8の事実は認める。(引受参加人)
三 抗弁
1 催告の無効
(一)(1) 昭和一一年三月、被告斎藤は、林武平より本件(一)土地のほかに別紙物件目録記載第一(二)の土地(以下「本件(二)土地」という。)を賃借し、原告は昭和一三年一二月二六日右林より本件(一)土地のほか本件(二)土地をも買受けて、右賃貸人の地位を承継した。
(2) 原告と被告斎藤とは、昭和二二年頃、本件(二)土地の代替地として別紙物件目録記載第一(三)の土地(以下「本件(三)土地」という。)に被告斎藤の賃借権を設定した。
(3) しかるに、原告は、本件(三)土地を引渡さなかったので、被告斎藤がこれを引渡すように求めたところ、原告は、被告斎藤に本件(三)土地を借地として提供する時まで被告斎藤の本件(一)土地賃料支払期限を猶予した。
(4) したがって、本件催告は、被告斎藤の本件(一)土地賃料支払時期が未だ到来していないのになされたものであるから、無効である。
(二) 昭和二五年四月から昭和四七年四月までの賃料は合計一〇万六〇〇〇円(一か月四〇〇円)であるにも拘らず、原告は、一四五万〇三四八円を支払うよう催告しているので、本件催告は、過大な催告として無効である。
2 弁済
(一) 被告斎藤は、昭和四七年五月二二日、未払賃料合計一〇万六〇〇〇円(一か月四〇〇円計算)を弁済供託した。
(二)(1) 被告斎藤は、昭和四七年五月一七日、未払賃料一〇万六〇〇〇円を弁済のため原告方へ持参したところ、原告方から応答がなく隣家の居住者に聞いたところ原告は病気のため面接しないということを聞き受領不能のため右供託をしたものである。
(2) 仮に被告斎藤の弁済の提供が認められないとしても、原告の催告金額は、被告斎藤の未払賃料額より甚しく多額で、被告斎藤がこれを提供しても原告が受領を拒絶することが充分推認できるところであるから、このような場合は現実の提供がなくとも供託は有効である。(以上被告ら及び引受参加人)
3 賃借権譲渡の承認
引受参加人は、本件(一)ないし(五)建物を競落するとともに本件(一)土地賃借権をも承継したが、その後原告と再三交渉した結果賃借権譲渡について原告の承認を得た。(引受参加人)
4 建物賃借権
被告斎藤を除く被告らは、原告から本件(一)土地を賃借している被告斎藤から同被告所有の本件各建物を賃借して本件(一)土地を占有している。
5 信義則
原告が収去を求めている本件(一)ないし(五)建物については、昭和四八年九月一〇日、原告の三男鈴木康之の株式会社第一勧業銀行に対する債務のため本件(一)土地とともに共同担保として極度額二〇〇〇万円の根抵当権が設定された。
また、引受参加人は別件東京地方裁判所昭和四九年(ワ)第一八二六号事件において被告会田外一名に対し家屋明渡を請求している。
右各事実は、土地所有者と家屋所有者とが共謀して家屋賃借人である被告らの明渡を求めているもので信義則に反する。(以上被告斎藤を除く被告ら)
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1(一)(1)ないし(3)の事実は否認する。
本件(二)土地は、原告の経営していた造園業の石等の材料置場であって、積下しのための車の出入りのため横の方が空けてあったのを、被告らが便宜通行していたものに過ぎない。原告は、昭和二二年頃、特殊飲食店組合に本件(二)土地を賃貸し、同組合が昭和二三年頃、右土地に建物を建築し始めて、通行ができなくなった際、本件(一)土地の東側(本件(三)土地の一部分)に別途通路を設けた。
2 同1(二)の事実中、原告が未払賃料として合計一四五万〇三四八円の支払を催告したことは認める。
3 同2(一)の事実は認めるが、(二)(1)の事実は否認する。
4 同3及び5の各事実は否認する。
(反訴)
一 請求原因
本件(一)土地については、本訴における被告斎藤の請求原因に対する認否1、本件(三)土地については、本訴における被告斎藤の抗弁1(一)(1)(2)とそれぞれ同じ。
よって、被告斎藤は、原告との間で、被告斎藤が本件(一)及び(三)の土地につき借地権を有することの確認を求める。
二 請求原因に対する認否
本訴における請求原因2及び被告斎藤の抗弁に対する認否1と同じ。
三 抗弁
本訴における請求原因3、4と同じ。
四 抗弁に対する認否
本訴における請求原因に対する認否2、3と同じ。
五 再抗弁
本訴における被告斎藤の抗弁1、2と同じ。
六 再抗弁に対する認否
本訴における被告斎藤の抗弁に対する認否1ないし3と同じ。
第三証拠《省略》
理由
第一被告らに対する請求
一 請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。
二1 昭和二五年三月当時の本件(一)土地の約定賃料が一か月四〇〇円であったことは当事者間に争いがない。
2 原告は、自己の過失に基づくことなく、相手方の住居所が不明のため相手方に賃料増額請求の意思表示をなしえなかった場合には、その旨の意思表示がなくとも、未払賃料につき遡及して増額分を請求しうると主張するが、相手方の住居所が不明であっても、公示による意思表示の方法が認められていて原告の保護に欠けるところはないから、原告の主張は採用できない。
したがって、原告と被告斎藤間の本件(一)土地の賃料は、昭和二五年四月以降も一か月四〇〇円のままであるといわざるをえない。
三 請求原因4前段、5及び7の各事実は当事者間に争いがない。
四 被告らの抗弁1(催告の無効)
1 《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件(二)土地は、一筆の土地の一部分で、北から三分の二は本件(一)の土地の西側に隣接し、南から三分の一は本件(一)土地の西端から約一〇メートル隔たって位置する幅一・八メートル、奥行二九メートル(五二・二平方メートル)の帯状の土地である。
(二) 昭和二二年以前、本件(二)土地とその西隣りの空地(同一地番の土地)との境には鉄条網が張ってあり、西隣りからは入れないようになっていて、本件(一)ないし(四)建物の賃借人は、本件(二)土地を南の道路へ出るための通路として使用していた。
(三) 昭和二二年頃、原告は、本件(二)土地を特殊飲食店組合に賃貸し、同組合が昭和二三年頃本件(二)土地を含む隣接地上に建物を建築したため、本件(一)土地上の建物賃借人が本件(二)土地を通行できなくなった。そこで、被告斎藤は、被告目黒ら賃借人の要請を受けて、原告に対し、店子が困るとの理由で別途通路の開設を要求し、原告は、間もなく本件(一)土地の東側に隣接して、幅一・一八メートル、奥行一九・五二メートル(約二三平方メートル)の通路を開設した。
(四) 被告斎藤は、昭和二五年三月分までの賃料を支払ったが、原告が旧通路と同じ面積の通路を開設しないことを理由に同年四月分以降の賃料を支払わなくなった。右事実が認められ、《証拠省略》中、本件(二)土地とその西側の空地に鉄条網はなかった旨の証言は被告斎藤信男及び同目黒八百四知の各供述に照らし措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
被告斎藤は、本件(二)土地を賃借していた旨供述するが、前記(一)で認定した本件(二)土地の位置関係、前記(三)で認定した新通路開設要求の理由、前記(四)で認定した旧通路閉鎖後の賃料支払の事実を考慮に入れると、本件(二)土地は賃貸借契約の対象土地というよりもむしろ本件(一)ないし(四)建物居住者の便益に事実上供されていた土地とみることができ、同被告の右供述は信用できない。また、被告斎藤は、原告と被告斎藤との間に本件(二)土地の代りに本件(三)土地を賃貸するという合意があった旨供述するが、右供述自体必ずしも明確でなく、しかも、前記のように本件(二)土地賃貸借契約が認められないので、右供述は措信しがたく、他に右合意を認めるに足りる証拠はない。
さらに、被告斎藤は本件(三)土地を代替地として提供するまで本件(一)土地の賃料を支払わないと原告に申入れたところ原告がこれを了承した旨供述するが、同被告の供述によっても原告が本件(三)土地を近い将来において提供することは期待できなかったことが認められるのみならず、単純に本件(一)土地と本件(二)土地との各面積を対比しても、同被告の供述するような支払の猶予は考えられないところであり、右供述は措信しがたい。
したがって、被告らの抗弁1(一)は採用できない。
2 前記二2で認定したとおり、本件(一)土地の賃料は、昭和二五年四月以降も一か月四〇〇円のままであったから、同月から昭和四七年四月までの賃料は、合計一〇万六〇〇〇円であったことになり、原告の催告にかかる金額一四五万〇三四八円は、これを大幅に上まわることとなる。
しかし、前記1(四)で認定したとおり、被告斎藤は、昭和二五年四月から二二年にわたり賃料を支払わず、その間被告斎藤の住所が原告に明らかでなく、原告から連絡をとることが事実上困難な状況であったことが《証拠省略》から窺うことができるのみならず、催告にかかる金額は月額四〇〇円の割合で計算した金額に比すれば大巾に上廻るものの、経験則上予想される適正な地代額とは大きく離れないと認められるので原告が催告の書面に賃料がその間当然に増額されたものとして前記のような金額を記載したことにも無理からぬところがあり、しかも、右催告においては、支払を催告された未払賃料の範囲は十分明らかになっている。したがって、貸主借主双方の態度を考量すると、催告金額が未払金額を大幅に上まわっているとの一事をもって、本件催告を無効とすることは相当でない。
よって、被告らの抗弁1(二)も採用できない。
五 被告らの抗弁2(弁済)
1 被告斎藤が昭和四七年五月二二日未払賃料として一〇万六〇〇〇円を供託した事実は当事者間に争いがない。
2 次に、右供託の効力につき判断する。
被告らの主張にそう被告斎藤信男の供述は、《証拠省略》に照らすと、あいまいであり、かつ合理性に欠けるから措信し難く、同被告の供述が右のとおりである以上、右主張にそう被告目黒八百四知の供述も、より間接的な内容であることに徴し、右主張を肯認させるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
また、被告らは、原告のした催告の金額が過大であるから、原告には受領の意思がないものと推認できたから、提供は不要な場合である旨主張する。
しかし、右の催告金額については、前記四2で判示したとおりであって、右事実から直ちに原告の受領拒絶の意思を推認することは相当でない。
したがって、被告らの抗弁2も理由がない。
六 被告斎藤を除くその余の被告らの抗弁5(信義則)
被告らは、本件(一)ないし(五)建物が原告の三男鈴木康之の債務のため担保に提供されていること、引受参加人が別件訴訟において被告会田らに対し家屋明渡を請求していることを挙げて本件訴訟は、原告と本件各建物競落人である引受参加人が共謀の上遂行しているものであって、信義則に反すると主張する。
しかしながら、本件訴訟は、原告が借地人である被告斎藤の賃料不払を理由に土地賃貸借契約を解除したことを第一次的な主張とし、その結果として、被告斎藤からの借家人であるその余の被告らの退去等を求あているのであって、前記のような原告と引受参加人との関係があるからといって、原告の請求が信義則に反するものということはできない。
七 次に本件(一)土地の昭和四七年五月二五日以降の適正賃料額について考えてみると、弁論の全趣旨によれば、昭和四五年度の本件(一)土地の固定資産税評価額が一三一一万二〇六〇円であることが認められる。そして新規の土地賃貸借における適正賃料の算出方式には種々のものがあるが、少くとも当該土地の時価に標準利回率を乗じ、固定資産税額等の必要経費を加えた額が標準的なものであることは公知であるところ、固定資産税評価額が時価を下廻り、昭和四五年度の固定資産税評価額が昭和四七年度のそれをこえることのないことも公知であるから、標準利回率として通例より低目の年五分を採用し、単純に前記本件(一)土地の固定資産税評価額にこれを乗じても、原告の主張額はその額に達しないことは計算上明らかである。よって本件(一)土地の右適正賃料額は二万三四九〇円を下らないということができる。
八 以上の事実によれば、被告斎藤は原告に対し、本件(一)ないし(五)建物を収去して、本件(一)土地を明渡し、かつ、賃貸借契約終了後である昭和四七年五月二五日から右明渡済まで一か月二万三四九〇円の割合による使用損害金及び昭和二五年四月一日から昭和四七年四月三〇日までの未払賃料合計一〇万六〇〇〇円を支払う義務があり、その余の被告らは原告に対し、前記各建物占有部分から退去してその敷地部分を明渡す義務があるから、原告の被告斎藤に対する請求は、右の限度で認容し、その余は失当として棄却すべく、その余の被告らに対する請求は、いずれも理由があるから認容すべきである。
第二引受参加人に対する請求
一 請求原因1ないし3及び抗弁1、2に対する判断は、前示第一1ないし5に説示したとおりであり、請求原因8の事実は当事者間に争いがない。
二 引受参加人は、本件(一)土地賃借権の承継について原告の承諾を得た旨主張するが、本件全立証によってもこれを認めるに足りない。
三 してみれば、引受参加人は、原告に対し、本件(一)ないし(五)建物を収去して、本件(一)土地を明渡すべき義務があり、原告の引受参加人に対する請求は理由があるから認容すべきである。
第三反訴請求
一 被告斎藤が昭和一三年一二月二六日以来本件(一)土地を原告から賃借していたことは、当事者間に争いがないが、本件(三)土地についての賃貸借契約の認められないことは、前記第一の四1で判示したとおりである。
二 本件(一)土地の賃貸借契約が有効に解除されたことは、前記第一の三ないし五で判示したとおりである。
三 してみると、被告の反訴請求は理由がないから、棄却すべきである。
第四訴訟費用等
訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項ただし書を適用し、仮執行宣言の申立は相当でないからこれを却下し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 櫻井文夫 裁判官徳永幸蔵は職務代行期間満了につき署名押印することができない。裁判長裁判官 丹野達)
<以下省略>